#07.. 眠れぬ夜は |
| Update : 2005/07/02 15:21:00 |
そろそろ日付が変わろうとしていたが、なかなか寝付けなかった。
耳を澄ますと、波の音に紛れて暴風と、それが原因で蠢く亜熱帯樹木のシンフォニーが聞こえてきた。
天候は穏やかでない。
「随分と風がきつくなってきたな」誰にとはなしに私が言った。
嵐が近づいているのだ。風は強く波は荒れている。
ここは沖縄、高さ六階、大丈夫だろうと解っていても、それでもなお、不安になる夜であった。
「大丈夫だろうか? 明日目が覚めたら、ホテルごと海の底とかだったらどうしよう?」まだ寝つけていないらしく、マキシドールが私の会話に参加して来た。
「とりあえず、食堂へ向かう」と私が答えた。朝食のバイキングは二千円という値段の割には、たいしたことが無かった。ホテルに来て二千円で朝食を食べられるだけでも有難い事なのかもしれないが。
「泳いで行くんか?」とヒムが訊いてきた。
少年の笑い声も聞こえる。どうやらこの部屋にいる四人全員、眠れないようである。
「さすがに飽きてきたが、料金に含まれているからなぁ」
バイキングとは名ばかりで、なんとまあメニューの少ないこと。ロビーの売店のインスタントラーメンの品数と変わりが無い。
しかも、鯖の塩焼きは干からびて干物になっていた。
食事だけならまだ許せるが、このホテルは値段の割に、かなりクオリティが低い。
まず、チェックインの時の無愛想な対応、何も言わずに鍵だけ渡された。当然のごとく、荷物を部屋まで運ぶボーイはいない。
次に、ホテルの設備。ロビーと部屋以外に空調設備の付いた場所は無い。この真夏に締め切った廊下がどれほど暑いことか。
しかも部屋はぼろい。水道の水で顔を洗うのに、どれほど苦労しただろう。
すぐには気づかなかったが、壁のあちこちに血が垂れた後の様なものがあった。そうでなくとも、不自然に壁紙が部分的に張り替えてある箇所があるというのに。
とどめは、場所。空港からのリムジンバスで何時間も走り続け、時間経過とともに比例して建物が減り、木が増えていく。
最後のコンビに過ぎてからどれほど走ったことか。
とにかく、居心地の宜しからざるホテルであった。せめてもの救いは海の見晴らしが良いことだった。
しばらく不毛な会話を続け、それでもまだ寝付けそうに無かったので、私たち四人は何か面白い事をして笑えば疲れて眠れるのではないか、という結論に至った。
ヒムはトビロフスキーにメールを送った。こういう場合、送る相手は限られている。
その条件として、@気が長い奴、A必ず返事を返しそうな奴、Bふざけ過ぎない程度に面白く、真面目な返事を返す奴などがある。
<最高です!>とか
<どすこい(安)(注1)>等、かなり意味不明な物を、十ほど送った。
送ってもちっとも返事が来ない。これでは余興にも何にもならないので、私たち四人は次のスケープゴートを選出した。
O西U介に決まった。まず
<OUよ、貴方は選ばれた勇者です。さあ、ここにいる四人の名前を言え>と送った。
もちろん選んだのは私たち四人だ。メールは全てヒムが送り、そして受け取ってその内容を残りの三人が聞いていたので、正確なやり取りは不明である。
OUは真面目な返事を送ってきたが、私たち四人を当てることはできなかった。
<MM,MK,KM,THからの好感度−5。 次、間違えたらCランクエンディング!>
と送り返した。
どうやらOUはうんざりしているようだったが、我々の安眠の為には必要な犠牲であった。
こうして、夜は過ぎていった。
注1:「どすこい(安)」は京極夏彦氏の作品です。
|
|
|
|
|