#02.. ある暑い日のこと |
| Update : 2005/07/02 15:21:00 |
電車から降りて、階段を下った。改札を出ると、見覚えのある女子が柱の側に立っていた。おそらく同じアルバイトの人だろう。
人違いの可能性もあったが、二日前に見たばかりなので多分間違いないだろう。
何度か話をしたことはあるが、名前は知らない。向こうは私の名を知っているようだが。
私は進路を変更した。
私はその女子のいる柱の前で立ち止まって、秋の全国交通安全運動のビラのついたティッシュを受け取った。ティッシュには反射材でできたプリズムキャラクターミニキーホルダーが入っていた。
私は嬉しくて踊りだしそうになった。実は既に踊っていたかもしれない。
ふと見ると、先ほどティッシュをくれた老人も微笑んでいる。ようやく受け取ってもらえて嬉しかったのだろう。
そのままこの老人と喜びを共有しながら、肩を組んでグリーンスリーヴスを口ずさみ、グリーンマイルまでも歩いていきたくなったが、思い留まった。
危うく拉致されるところだった。
数歩歩いてから私は後ろを振り返り、先ほど話しかけそびれた女子を見た。
(どうしよう、話しかけるべきだろうか?)
いや、やめておこう。まだ、彼女が老人からティッシュを受け取って、拉致されると決まったわけではない。
それに、そんなことに気づかないようでは、この先生きてはいけないのだ。これはきっと、あの女子への試練なのだ。
(頑張れよ)私は心の中でエールを送り目的地へと向かった。
ちなみにエールというのは北欧神話に登場する神の名である。
それはとても暑い日のことだった。
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