#03.. ドライブ |
| Update : 2005/07/02 15:21:00 |
ようやく、目的地に辿り着いた。意外に時間が掛かってしまった。
途中でヒューマン・アカデミーのティッシュを受け取った瞬間、時間を吸い取られたのだろう。あの年齢不詳の女性はただのバイトではなく、どこかの王宮専属の時魔道士に違いない。
(私もなってみたいものだ。)
私は教習車が止めてある場所へ行き、原動機無し自動車を探した。遮るものは無く、強烈な紫外線が私を不機嫌にした。
あっけなく見つかったその車の側面には、03とペイントされていた。どうやらミッション車のようだ。ドアを開けてシートに座りブレーキを踏んでドアをロックした。さらに続けてクラッチを踏んでシートの調節、シートベルトの装着、ミラーの調整をした。
これらの動作全てを1ターンで済ませた。これだけ手際が良ければ誰からの攻撃も受ける心配はない。
「どうした、掛かって来い、豊田」もし奴が襲い掛かってきても、ここへ辿り着くのに80ターンは掛かるだろう。そうでもなければこんな大口は叩けない。
優越感に浸っている間に3ターンが経過した。
私は慌てて周囲を見渡したが周りの状況に変化はない。もし、オヤジ戦車がいたらやられていただろう。油断は禁物だ。
ギアをニュートラルに入れ、キーを回した。ところが、車は何の反応も示さない。
(故障しているのだろうか?)
私は後方の安全確認をして車を降りた。こんな砂漠のど真ん中で接近するものなど何も無いが、癖なので仕方がない。
(誰かが来るなら、是非ここから救助してもらいたいものだ)
車の正面に回りこみ、前面のボンネットを開けた。少し重かったので両手で持ち上げた。火傷しそうな位熱かった。中は空っぽだった。
「何もない、どういうことだ」
よく見たら、底のほうに黒っぽい粉の様な物がある。
「まさかこれが、“くじけぬこころ”なのか?」指で摘んで舐めてみた。どうやらただの埃のようだ。
(某RPGじゃ、あるまいし)
背後に人の気配を感じて振り返ると、教習所の指導員が立っていた。
「“くじけぬこころ”とは、ここに辿り着くまでに君が得た物だ。さぁ、国王陛下がお待ちだ。付いてきなさい」そう言うと、指導員の服を着た人はどんどん歩いていった。
遅れまいと付いていきながら私は考えた。
(“くじけぬこころ”とはティッシュのことだったのか?)
国王陛下は品格の欠片もない男だった。よく見るとなんとなく見覚えがあった。この前トイレですれ違ったような気がする。
上の空でいたら、いつの間にか国王陛下の話が終わっていた。
「頑張れよ」激励の言葉とともに黄色と緑の活かした若葉マークを手渡された。
「あんたも、まだ諦めんなよ」と、頭部に一瞥を加えてから私は建物から出た。
表には大型トラックが止めてあった。
話を聞いていなかったが、どうやらこれで荷物を運んでほしいようだ。
大型トラックに初心者マークを貼ることに少し抵抗を感じたが、国王陛下のお許しが出ているのだから大丈夫だろう。
私は大型トラックを発進させ、道路を直進した。
信号を右折すると、
“たいこうしゃせんにセダンがあらわれた!”
“せんせいこうげきのチャンス!”
“MMはセダンにミサイルをはなった”
勿論、エンジンの誘爆を避けるためにパイロットを狙った。
私は、その初めてとは思えない、思い切りの良さにガッツポーズした。
20キロ後方に、赤いランプが複数ちらついている。今の爆発で気付かれたのだろうか。多勢に無勢。
“MMはにげだした!”
私の長い旅はまだまだ続きそうである。
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